星は動いてる

偶然の出会いが迷い人の明日を輝かす物語と日々のこと

あゆむの場合(3)

あゆむの場合

あゆむ の場合(2) からのつづき

バッグを手に会計を済ませ、店の外に出る。「チリンチリン」
アベルの音を背に思う。(俺、大丈夫か。)
普段の自分からは想像できないほどの思い切った言動に、足元がフワフワしている。(とにかく帰ろう。もう夕方だ。)

自宅に戻り、適当に夕食を済ませ、母にライン送信する。もちろん出生時間の確認のためだ。久し振りのラインで、出生時間の確認とは訝しがるだろうってことは容易に想像できたが、いたしかたない。
”14:10” が母子手帳記載の出生時間らしい。思いのほかすぐに判明した。
母からの、仕事の様子やら食事やらの確認は適当にスルーした。

出生時間は確認できた。占い師さん、いや、ともこ さんにラインを送信するかどうかで一瞬躊躇する。
無料とはいえ運勢鑑定をしてもらう意味はあるのか。何を知るつもりなのか、知ってどうするつもりなんだと自問自答する。
(出生時間が重要な占星術って聞いたことないな・・・。いや俺が知らないだけなのか・・・。ただ、俺は今、時間だけはたっぷりある。家にいてモヤモヤした時間を過ごすくらいなら、運勢鑑定とやらを受けても損はない。しかも無料なんだから。)

意を決し、生年月日、出生場所、出生時間を入力。鑑定結果を聞く日時は 4/20(土)15:00 ~ でお願いしたい旨送信する。
しばらくして ともこ さんから返信が来た。
《あゆむ様 承知いたしました。では 4/20(土)15:00 ~ ということでお待ちしております。》

ともこ さんからの返信を受け取り、ベッドの上で今日一日を振り返る。
面接までこぎつけた企業での仕事は営業職。志望動機を聞かれることは、求職者にとっては周知の事実。常識中の常識。それらしい当たり障りのない答えは準備していた。
問題は、意気込みというやつだ。是が非でも御社に入社し、業績に貢献できるよう励みます的なアピールが弱かった。
キラリと光る個性も感じられず、特別な資格もなく、採用に二の足を踏ませる人物であろう事は容易に想像できる。
履歴書、職務経歴書ほ不採用ボックス行きだろう。

営業職が本当にやりたい仕事かと問われれば、本音では・・・それほどでもない。かといって、やりたい仕事というものはなく、必然的に絶対にやりたくない事、無資格でも就業可能な仕事に絞られる。
大きな野望もなければ、組織の中で重要なポジションに登りつめたいというわけでもない。だが、与えられたやるべき仕事には、絶対に手は抜かない。自分が思いつくベストな状態で仕上げたいと思っている。必要とあれば残業も厭わない。
やりたい仕事はないが、どんな業種であろうと、仕事に対する姿勢は変わらないところがまた厄介だ。

俺には何かが足りてないのか。俺は変な奴なのか・・・。いつも答えは先延ばしだ。1足す1は2。作者の意図するところは○○○。正解は周知として常に示されていた。
今の俺は、誰もが正解としていることから外れてしまっていることは明らかだ。
正解の場所に戻る方法も解っている。正解の場所は、安定と少しのやりがいとを引き換えに、何かしらの諦めをともなう場所だ。
人が羨むような優雅な生活を送りたいわけでもない。高級な腕時計やブランド物を持ちたいわけでもない。これから先、何十年と続くだろう未来に明確なビジョンを持たず、一日一日をこなすだけだ。生きていく為に・・・。

そうなんだ。生きていくにはお金が必要だ。家賃、食費、光熱費、通信費もろもろ・・・。
就業している時には意識していないが、就業ルートから外れた途端、生きていく為の出費が重くのしかかる。
健康保険料、国民年金・・・。しばらくすると納付案内がやってくるはずだ。就職を先延ばしにできるほどの潤沢な預貯金はない。もって数ヶ月というところだろう。
アインシュタインではない超超凡人の俺には、答えの出ない疑問には、考えないこと、時間を割かないことが正解なのかもしれない。

ふと、ともこ さんのいた喫茶店での光景が浮かび上がる。
「ずっと良いまま、ずっと悪いままはありません。星は動いています。人生も常に動きますから。」 迷いのない言葉。お世辞や慰めからの言葉ではないことは肌で感じた。
あの言葉は、確信、経験、信頼、・・・どういう所から発せられているものかは解らないが、ともこ さんにとっての真実だろう。
俺にはあんな風にしっかりと答えられるものはあるだろうか。

堂々巡りの沼に陥る前にベッドから起き上がる。考えていたってしょうがない。就職情報サイトの確認だ。
ともこ さんに会うまでには時間がある。いくつかの企業にアクションしておこう。勝手知ったるサイトを確認し、3社の求人募集にWEB応募した。

(今日はいろいろ頑張った。)今の自分を慰める。
とりあえず今の自分が考えつく、今日やるべき事はクリアしたとしよう。
たしか聖書にもあったはずだ。【次の日は次の日で心配する事があります。その日の問題は、その日だけで十分です。】
明日がどんな日になるかは誰にも解らない。なら、いい事があるかも・・・というフワッとした予感を持って今日一日を終えてもいいだろう。
明日の心配事には明日の自分が対応する。
おやすみなさい。

続く・・・・・